2005年6月14日
ある日のバイトの帰り道、交差点に警官がいました。
彼らは交番の近くの交差点で検問のようなことをしていました。
飲酒運転やスピード違反を取り締まっているのでしょう。
夜遅くまで働く姿には感心します。
たくましく、働き盛りの壮年男性である彼らからは、威圧感すら感じ取れます。
その交差点を過ぎて50mくらい行ったところに次の交差点があります。
そこの交差点には毎晩ひとりの老婆が立っています。
年のわりに足腰は丈夫なのかもしれませんが、
先ほどの警官から比べたら、いかにも弱々しい存在です。
ですが、仕事が早く終わって10時くらいにそこを通りかかっても、
逆に帰りが遅くなってしまって日付がかわる頃にそこを通りかかっても、
彼女は交差点でじっと辛抱強く立っているのです。
警官の検問はごくたまに見かけるだけですが、彼女はいつでもいるのです。
寒かった冬の夜でも、蒸し暑い夏の夜でもです。
彼女は呆けてしまっているのでしょうか?
それが日課なのでしょうか?
痴漢にはあわなくとも、ひったくりにとってみたら老女は格好の餌食です。
危険な夜になぜ彼女は一人でじっと交差点のそばで立つ理由があるのでしょう?
みなさんにはその理由がお分かりでしょうか?
オレには十中八九間違いないという答があります。
オレが住む街では、ある意味で常識になっているからです。
結論から言うと、この老婆の生業は売春の斡旋です。
斡旋であるからには彼女は仲介者であって、裏には売春婦が存在するということになります。
オレが通りかかった交差点というか、その地区はもともと遊廓街でした。
そして歓楽街と表現は変わりましたが、今も役割は同じ。
要するに水商売の店で賑わっている地区なのです。
こんな地区だから売春も、その斡旋も当たり前の光景だと思う人もいるでしょう。
ですが、こんな地区だからこそ違和感があるのです。
ここは歓楽街、若い女性なら働き口はいくらでもあります。
そして水商売の世界でのし上がっていけば、
きっとそれなりに羽振りのいい生活ができるはずです。
羽振りのいい生活ができる背景には、給料の高さがあります。
そして、そんな高い給料を捻出できる背景には、当然ですが利用料金の高さがあります。
不況の今、はたして何割の男性がそんな大金を衝動的に使えるでしょう?
綺麗な女性に直接誘われたならともかく、
よくわからない老婆に呼び込みをされただけで、動くパイが多いとは思えません。
では、なぜ呼び込みに不向きなはずの老婆が呼び込みをするのでしょうか?
もう予想がつく方もいるかもしれませんが、
要するに老婆に頼らざるを得ないバックグラウンドが潜んでいるわけです。
つまり、老婆が斡旋する売春婦は
法律的に認められた風俗店に就業できない人間であるとみて間違いないです。
具体的にあげるとするなら、それは一線では働けなくなったホステスの成れの果て、
不法入国者、またはビザが切れた後も住み続けている違法滞在者でしょう。
一見すると夕涼みに出ているようにしか見えない老婆は、裏の世界の扉を開く存在なのです。
ここで付け加えなければならないことがあるとするなら、
どういう経緯で老婆が仲介役を引き受けたかという点ですが、
納得できる範囲内で予想するとしたら、老婆が暴力団と繋がりがあると見るのが妥当です。
こんな違法性を十分に孕んだ存在が、時には50m先で検問が行われる地点で、
毎晩堂々と呼び込みをできるのはどういうことなのでしょうか?
そこに末端にでさえ、摘発という形で手を出したくない警察の姿勢を見るのは
オレの穿った見解かもしれません。
ですが、事実として、老婆を摘発すれば芋づる式に売春婦が、
そしてその背後にある組織が摘発されるわけです。
警官がいる交差点と老婆がいる交差点の間の一区画、約50mが
暗黙のうちにできた双方の行動範囲の境界というか、
お互いの存在をわざと不透明にする為のクッション的区画になっている気がするのです。
そうして、その老婆がいる地点からさらに一区画進んだところに
ある団体の事務所があります。
この50mもまた、老婆と組織が無関係であるということの建前からできた境界に思えるのは
思い過ごしなのでしょうか?
ことの全貌を知りたいとは思いますが、
核心に踏み込むには危険すぎる世界だとも、なんとなく肌で感じ取れるのでした。
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